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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)81号 判決 1999年6月09日

東京都昭島市松原町3丁目9番12号

原告

理学電機株式会社

代表者代表取締役

志村晶

訴訟代理人弁護士

山崎順一

同 弁理士

鈴木利之

東京都昭島市武蔵野3丁目1番2号

被告

日本電子株式会社

代表者代表取締役

江藤輝一

訴訟代理人弁護士

久保田穰

増井和夫

訴訟復代理人弁護士

橋口尚幸

主文

特許庁が、平成4年審判第1770号事件について、平成6年7月15日にした審決を取り消す。

差戻し前及び差戻し後の第一審並びに上告審の訴訟費用は全部被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文第1項と同旨

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

(1)  被告は、名称を「微小領域X線デイフラクトメーター」とする特許第1609226号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。

上記特許は、昭和53年10月30日に日本エツクス線株式会社が特許出願し、平成元年10月11日に出願公告され、平成3年6月28日に設定登録された後、同年12月16日に日本エツクス線株式会社から被告に対する特許権の一部持分の移転登録が、平成5年6月28日に日本エツクス線株式会社から被告に対する特許権の残持分の移転登録が、それぞれされたものである。

原告は、平成4年2月3日に被告及び日本エツクス線株式会社を被請求人として、上記特許につき無効審判の請求をした(上記特許権の残持分の移転登録に伴い、被告が日本エツクス線株式会社の被請求人の地位を承継した。)。

特許庁は、同請求を平成4年審判第1770号事件として審理したうえ、平成6年7月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年8月10日、原告に送達された。

(2)  被告は、平成8年11月19日、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を平成8年審判第19721号事件として審理したうえ、平成9年7月14日に上記訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし、同月30日、その謄本が被告に送達されたことにより、確定した。

2  訂正審決の内容

訂正審決による訂正前の特許請求の範囲の記載及び訂正審決により訂正された後の特許請求の範囲の記載は、それぞれ次のとおりであって、訂正審決は特許請求の範囲の減縮に当たるものである。

(1)  訂正審決による訂正前の特許請求の範囲の記載

多数の結晶粒から成る試料と、X線源と、該X線源からのX線をコリメートして前記試料上の微小領域に照射するための手段と、前記試料上のX線照射位置を観察するための光学顕微鏡と、前記X線の光路を含む面内に前記試料によって回折されるX線の所望角度範囲をカバーするように配置された位置感応型X線検出器と、前記光学顕微鏡を用いて試料の所望の微小領域を測定位置に位置付けるため前記試料の位置を微調整するための調整機構と、前記検出器からの信号を処理し位置情報を得る回路と、この信号を一定期間積算的に記憶する手段と、該信号を積算的に記憶する測定期間中、その先端に前記試料を保持する回転軸(φ)を連続的に回転させると共に該試料を前記回転軸(φ)とは垂直なx軸の回りに連続的に回転させるための試料駆動機構と、前記記憶された信号を読み出し、表示する手段とから構成したことを特徴とする微小領域X線デイフラクトメーター。

(2)  訂正審決により訂正された後の特許請求の範囲の記載多数の結晶粒から成る試料と、X線源と、該X線源からのX線をコリメートして前記試料上の微小領域に照射するための手段と、前記試料上のX線照射位置を観察するための光学顕微鏡と、前記X線の光路を含む面内に前記試料によって回折されるX線の所望角度範囲をカバーするように試料の回りに半円状を成して配置された位置感応型X線検出器と、前記光学顕微鏡を用いて試料の所望の微小領域を測定位置に位置付けるため前記試料の位置を微調整するための調整機構と、前記検出器からの信号を処理し位置情報を得る回路と、この信号を一定期間積算的に記憶する手段と、該信号を積算的に記憶する測定期間中、その先端に前記試料を保持する回転軸(φ)を連続的に回転させると共に該試料を前記回転軸(φ)とは垂直なx軸の回りに連続的に回転させるための試料駆動機構と、前記記憶された信号を読み出し、表示する手段とから構成したことを特徴とする微小領域X線デイフラクトメーター。

(注、下線部分が訂正個所である。)

3  本件審決の理由の要旨

本件審決は、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲記載のとおりと認定したうえ、本件発明が、<1>1977年発行の「ADVANCES IN X-RAY ANALYSIS Vol.20」529~545頁(審決甲第1号証、本訴甲第4号証)、<2>1949年発行の「THE REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS Vol.20 n.5」365~366頁(審決甲第8号証、本訴甲第5号証)、<3>昭和47年発行の「材料 21巻227号」807~815頁(審決甲第10号証、本訴甲第6号証)、<4>昭和51年発行の「日本結晶学会誌 18巻30号」30~34頁(審決甲第15号証、本訴甲第3号証)にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできず、請求人(注、原告)の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできないとした。

第3  当裁判所の判断

特許請求の範囲を減縮した訂正審決の確定により、本件審決が、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲記載のとおりと認定したことは、結果的に誤りであったことに帰し、この要旨認定を前提とした点で、本件審決の判断にも誤りがあったものといわざるを得ないから、本件審決は、瑕疵があるものとして、取消しを免れない。

よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、67条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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